ある路地の風景

 以前,保健福祉部という部局に勤務していたときに,「プラス1,000歩運動」に取り組んだ。

 これは,生活習慣病予防のために国が進めてきた「1日10,000歩運動」の取組がなかなか浸透しないために,少しハードルを下げて,まずは,毎日,今よりも10分間,1,000歩多く歩くことから始めようというもの。

 当時,同運動の担当係長をしていた私は,それ以来,朝は2つ前のバス停で降り,また,帰りは,6つ先のバス停まで歩く取組を,可能な限り地道に続けている。

 朝も夕も,いつもランダムなルートで,路地から路地を巡って通勤すると,車で通り過ぎるだけでは決して気づかないような様々な街の風景に出会うことができる。

 1年中鉢物の美しい花を切らすことのないお宅や,掃除中の手を止めて礼儀正しい挨拶をしてくれる小学生,弁当屋さんから流れてくる,朝には少し重たい揚げ物の香り,メタボな体つきとはアンバランスな野性味あふれる鋭い目をしたノラ猫,季節を感じさせてくれる木蓮の花や紅葉した落ち葉,民族衣装で小学生の我が子を見送る本学留学生の家族,1日も欠かさず公園の掃除に精を出す高齢者の皆さん,東日本大震災関係で避難してきた方のものであろう仙台ナンバーの車,どこからか聞こえてくる目覚まし時計の音等々,枚挙にいとまがない。

 そんな中,最近,私的に「?」だった風景が2つある。

 1つは,ある小学校のプール横にある切り株の風景。 金網に絡まり,宙づりになったこの切り株を見るたびに,もっと早い時期に,しかも何回も,切るべきタイミングはあったはずなのに,なぜこうなってしまったのだろうかという素朴な「?」がわいてくる。
 この姿になっても,この木は新しい枝を伸ばし,次の生き残り作戦を展開中!! 「先手必勝」という言葉をこの木は知っているのではないだろうか?

  

 もう1つは,あるマンションの美しい花壇の風景の中で違和感を感じずにはいられない警告板。

 確かにバスを待つ人たちが腰掛けたり,手荷物を置いたりしたくなる、いい感じの高さの花壇である。。

 これは,花壇を荒らす行為に手を焼いた管理者が仕方なく設置したものであろうが,心ない人たちの仕業に腹が立つと同時に,もっと他にいい方法はないのだろうかという「?」がこれまたわいてくる

 今日も,様々な街の風景をまるで自分の家の庭のように眺め,楽しみながら,路地から路地を巡る私である。 

有村智明 2013.11.5