世界の桜島
鹿児島大学に赴任してから毎年夏は海外調査に行くようになり、今年は仲間たちとフィジーの村に来ている。フィジーでは村に滞在し、人々の生活と自然の利用について研究を行っているのだが、その滞在中に暇を見て仲間はネットで日本の情報を得ている。そして、友人の一人がヤフーのニュースに鹿児島のニュースを発見した。桜島が噴火しているというニュースだった。写真を見ながら、みんなですごいなあと、少しの間その話で盛り上がったが、一方で、気が重くなってきた。きっと鹿児島においてある車は灰まみれになっているし、もしかしたら部屋の中に灰が入り込んでいて、日本に帰ったら掃除が大変だろうと想像をしてしまったためだ。
数日後、仲間は先に帰ってしまったが、私一人実験を行うため、以前行った村にサンプルをもらいに車を走らせていた。ラジオをつけて音楽で気分を盛り上げようとするが、すこし郊外に来ると電波の受信状態が悪くなってくる。何とか見つけた電波はオーストラリアの番組で、音楽はなく何かをしゃべり続けている。それでもないよりましと聞いていたら、突然、Japanという単語が耳に入ってきた。何かと思ったら、続けてKagoshima、Sakurajimaという単語が耳に入ってきて、驚くとともに、神経を集中させ始めた。
桜島の噴火があまりにすごいので、その話題が世界に発信され、それを確認しにオーストラリアの特派員が鹿児島に行って取材をしてきたようだ。ラジオからは、なぜこのような地域に人々は住んでいるのでしょうか、と疑問をていしている。数百メーターのところに、世界的にみても非常に活発に活動している火山があるのに、「なぜ」と思うのは当然だろう。そんななか、ミカン農家の方のインタビューや、行政官や研究者の人のコメントがあり、この地域は果実や野菜が豊富にとれ、海岸性がきれいで癒しの地域で、とても魅力的な地域であるのだと結論付けていた。数日後には同じ系列なのであろう、オーストラリアのテレビ局で同じ内容の特集を放映していた。
世界の人々は日本の首相の名前など知らない人が多いであろうし、日本の首相の活動などニュースにもなりはしない。そんな中、桜島は世界に大きなインパクトを与えている。そんなことを考えたら、灰が原因の気がめいる多くのことなど忘れ、なんとなくもう少し桜島が活発に活動してもいいのかと考え始めている自分がいた。
PS この文章を書いて2か月がたつが、最近天文館を歩いていると、海外から来た旅行者風の人が増えたように思う。もしかしたら、彼らは母国で聞いた桜島のニュースを基に桜島を見に鹿児島に立ち寄ったのだろうかと想像している。
河合渓 2013.11.18