霧島山の春は黄色い花から
鹿児島市内のソメイヨシノが散り始める頃、霧島山に遅い春がやってきます。
霧島山には標高1500mを超える火山が連なっています。老若男女が車で手軽に行くことのできる、えびの高原も標高1200mの場所にあります。気温は1000mあたりおよそ6℃低下するので、えびの高原の気温は平地に比べると7℃くらい低いことになります。鹿児島市の年平均気温は18℃ほどなので、単純計算すると、えびの高原の年平均気温は11℃になります。実際には日照の関係もあって10℃前後であることがわかっています。
平地で年平均気温が10℃前後の場所はというと、岩手県盛岡市や宮古市、青森県青森市などがそれに相当します。つまり、霧島山の山頂部は、気温だけなら、東北北部から北海道南部と同じ環境と言えるわけです。したがって、霧島山の標高700-800mより高いところでは東北地方の平野部で見られるような植物が多数見られることになります。もっとも、植物の生育には気温だけでなく、降水量や降水の時期、日照量なども関係してくるので、その植生は完全に一致するわけではありません。
これらの植物は氷期の生き残りです。寒い時代に北の地方から南下してきたものの、最近2万年くらいの温暖化の際に北上せずに高いところに逃げこんだものなのです。霧島山における植生の垂直分布は氷期(寒い時)と間氷期(暖かい時)の名残と言えるのです。
さて、その霧島山に春の訪れを告げる花はマンサク(写真1)です。マンサクが多い大浪池の周辺には、その時期になると毎年多くの登山客が訪れます。マンサクも氷期の生き残りで、その自生南限は大隅半島の高隈山の山頂部とされています。
写真1 マンサクの花(大浪池にて) |
霧島山ではマンサクが終わる頃、キリシマミズキ(写真2)やシロモジ(写真3)の花が咲きだします。いずれも黄色い花であることから、「霧島山の花のシーズンは黄色い花で幕を開ける」と言われています。霧島山の花は、4月の後半にはハイノキや天然記念物のノカイドウに代表される白い花へと変わり、そして5月中旬のミヤマキリシマのピンクの花でクライマックスを迎えます。