黒と碧

 学生時代は北の海で研究をしていた。真冬の海水温は0℃近く、雪の降りしきる真夜中に波の当たる岩礁での貝の調査は過酷だが貴重な経験だった。そんな調査中に頭に流れてくるのは、演歌であり、みんなと歌った校歌や寮歌、そして水産放浪歌。時代もあると思うが、あの寒風吹きすさぶ、漆黒の波間に似合うのはゆっくりとした暗めの曲だった。  

 鹿児島に赴任してすぐに任されたのはトカラについて記事を書くという仕事だった。何も分からずにフェリーに乗り、トカラの島々を回った。2月だが南下するほどに暖かくなる。そして、宝島、小宝島でフェリーからみた海の碧さには感激した。真冬なのに暖かで気持ちを高揚させるあの碧さは、いまでも目に浮かぶ。この碧さに北の海の歌は似合わない。やはり、島唄であり、ジャンベのリズムだ。

 鹿児島に赴任して12年。頭の中では南国ジャマイカ発祥のレゲエのリズムがすぐ思い浮かぶようになった。天気の良い今日は、ボブマーリーのI Shot the Sheriffの気分だ。

河合渓 2013.2.20

鹿児島の海