虫の音

 先日、錦江湾(鹿児島湾)奥の霧島郊外を歩いた。

 秋の気配が深まりつつある郊外は、街灯の数も少なく、車の量は多いが人通りは少ない。寂しげだ。しかし、闇の迫る道で耳を澄ますと、秋の夜長を楽しませてくれる虫の音が鳴り響いていた。

 ナチュラリストではない私にはどんな虫が鳴いているかわからないが、童謡を思い浮かべながら、スズムシやらマツムシやらと思い浮かべてみる。

 子供のころ過ごした故郷の裏山は古墳を中心とした雑木林や桑畑が広がり、多くの生き物がすんでいた。夕方にはエンマコオロギなどの虫の音が響き、そして夜になると魑魅魍魎が徘徊するがごとく暗闇が広がるため、空想好きな私には恐れを感じながらも心地よいひと時だった。

 秋の気配は、明るくコンクリートの多い町中に暮らす私を、虫や魑魅魍魎たちが住む夕闇へと導いき、大学の雑務を忘れさせてくれる。

河合渓 2012.11.16