夏休み

 「大学の先生の夏休みは長いのでしょう」と訊かれるが、夏季休業は3日間である。8月前半には期末試験、9月には集中講義や実習があり、学生の休みも以前より短い。授業がびっしりある期間には、遠方へ野外調査に行ったり数十工程ある複雑な実験をしたりできない。やるなら今だ。森の中で試料やデータを集め、実験室に帰って遺伝子や細胞の分析をする。静かな好奇心と平板な緊張感が続き、達成感と非達成感が半々。その繰り返しである。研究対象と一対一で対峙して考えたいがために、これまで人と一緒に調査に行くことは滅多に無かった。鹿児島環境学プロジェクトに関わるようになって、様々な立場の人と現場に入る機会を持った。興味の対象は人それぞれで、同じ道を歩いていても視線の方向が違う。職業も年齢も多様な人達と山に入ると、これまで目を向けなかった類の自然現象や生き物の存在に気づかされる。まれに、休暇や連休を組み合わせて本州の高い山へ行く。この時だけは調査活動を自ら禁じて、ただ歩く。ン十年前の自分の山行記録と比較して、心身の老化を直視するための年中行事なのだが、なぜか毎度、天気が悪い。最近は,年1回ですら休暇の日程確保が難しい。と、書いたところでスケジュール表を見た。あ、空白域がある。しばらく研究室から消えます。

                               宮本 旬子 2012.8.30

奄美大島の渓流(2012年7月)

霧島の韓国岳中腹から大浪池(2012年8月)

中部山岳国立公園の穂高岳連峰(2010年9月)